カワサキ GPZシリーズは、ペットネーム「Ninja」を与えられ同社の中でも現在までセールスを続ける看板モデルのひとつです。
空冷&水冷。2つの顔を持つ忍び~カワサキ GPZ1100シリーズの歴史~ 中でもGPZ1100というマシンは、Z1を始めとするZシリーズから継承された空冷エンジンモデルのGPz1100と、水冷エンジンのスポーツツアラーGPZ1100の2モデルが存在。
しかし、どちらも「Ninja」の名を与えられず、影の存在として次世代カワサキ車へ多くのフィードバックを果たした異色の忍びの血統です。
このふたつのGPZ1100は、カワサキのモーターサイクル史を語る上でも、非常に面白い存在のバイクとしてファンに知られた存在となっています。
1983年の空冷と、1995年の水冷。
仕様・ルックスは異なれど、川崎重工グループの総力を集めて開発された新しいモーターサイクル、という共通点を持つGPZ1100は一体どんな存在だったのか?
12年というサイクルを経て蘇り、再び時代の影に隠れた名も無き忍び・GPZ1100の実像を解説していきます。
Z1・Z1-R・Z1000MK2 歴代Zシリーズの最終継承者~GPz1100(GPZ1100F・GPZ1100-1)~
1983年、Z1から誕生したカワサキZシリーズの新たな試みとして、フューエルインジェクション搭載車KZ1000-H1をベースに作られたのがGPz1100です。
小文字のzは空冷を意味し、後のGPZ900Rたちとの違いとして位置づけられた、いわば誕生の時点から訳ありのマシンです。
鋼管ダブルクレードルフレームというZシリーズ伝統のフレームに、最高出力120ps/8,500rpmのパワフルなエンジンを搭載。
リッター100馬力という壁を楽に越えたエンジンパワーは強力でしたが、もはや空冷エンジンとしての放熱処理は限界に来ており、1984年のGPZ900Rで水冷エンジン化の時代を迎えました。
カワサキの空冷ビッグバイクとしてのZシリーズは、このGPz1100をもって終焉を迎えることとなりました。
当時の最先端技術を集めて作られたGPz1100は、DFI(デジタル・フューエル・インジェクション)を搭載。
タンク上部に設けられた液晶メーターには、燃料とDFIのチェックランプが表示され、アンチノーズダイブ機構を持ったフロントフォークを装備。
まさに空冷最後のモンスターというべき存在でしたが、時代の波に勝てずわずか1年で生産を終えました。
GPz1100の車体サイズは、全長2,320mm×全幅740mm×全高1,275mmと、非常に押し出しの良い車格と存在感を持つマシン。
その強大なエンジンパワーを受け止め、中回転域からドカンと生み出される太いトルクは、80代のモーターサイクルを代表するに相応しい迫力があります。
高速になると、若干フロントに振動感がありますが、ビリビリとハンドルから伝わる振動は乗り手を挑発するようで、非常にエキサイティングな走りが楽しめます。
時代による設計の限界や、ネイキッドという位置づけもあってあまりバンク角の限界が高くないのが難点ではありますが、リッターバイクを走らせている満足感はかなり高め。
思い切った倒し込みにも意外に柔軟な反応を見せるGPz1100は、旧車で攻める走りを楽しみたい方にはたまらないワイルドな魅力がある一台です。
GPz1100の型番はZXT10Aとなっており、エンジンにはKZT10BE型とKZT10BG型の2種が存在。
400ccのGPz400F・750ccのGPz750が存在することから、稀にGPz1100FまたはGPZ1100-1として紹介されるケースがありますが、厳密にはGPz1100Fといったモデルは存在しません。
これは1995年発売のGPZ1100との区別化を図る意味で、便宜的に使われるケースのため要注意。
(たまにオークションサイトなどで「存在しないモデル名を出すのは詐欺だ」といった紛糾が起こるケースも。)
後にこのGPz1100のエンジンは、デチューンされてゼファー1100に搭載されることになり、Zシリーズではないものの表舞台への再登場を果たしました。
輸出専用モデルであった事、1年限りの生産期間であったことからカラーバリエーションが正確に知られていませんが、レッド+ホワイトラインが存在。
カワサキ伝統のライムグリーン+ホワイトラインなどのパターンもあるとされています。
現在ではかなりプレミアのついた稀少なモデルですので、カワサキファンなら一度は走らせてみたい一台と言えます。
カワサキ GPz1100(1983) スペックシート |
全長×全幅×全高 |
2,320mm×740mm×1,275mm |
エンジン形式 |
空冷4ストロークDOHC4バルブ並列4気筒 |
総排気量 |
1,089cc |
最高出力 |
120ps/8,750rpm |
最大トルク |
10.2kg-m/8,000rpm |
12年の時を経て水冷仕様車へ~GPZ1100(GPZ1100-2)~
世界最速の量販車として高名なZZR1100がハイスピードツアラーであったのに対し、より手軽なスポーツツアラーとして生み出されたのが1993年発売のGPZ1100です。
1983年のGPz1100から12年の時を経て、水冷エンジン搭載車として登場したGPZ1100は、扱いやすさをウリにしたマシンとなりました。
ZZR1100のエンジンをベースに低中回転仕様にデチューンが施され、最高出力は97ps/8,500rpmに。
オリジナルと比べると、50ps近いパワーダウンとなりましたが、スロットルワークに神経質になる事もなく、GPZ1100は取り扱いやすいツアラーとして好評を博しました。
2本のダウンチューブを使用したダブルクレードルフレームとの相性がよく、スムーズな吹け上がりもあって渋滞を苦にしないのがGPZ1100の特徴として挙げられることも。
ややGPZ900Rよりのエッジが効いたカウルデザインとなっているのも特徴のひとつで、国内仕様のGPZ900Rから乗り換えるオーナーも多数存在しました。
GPZ1100は全長2,180mm×全幅720mm×全高1,210mmと、ZZR1100以上に大柄な車格で存在感がありますが、ハンドリングは意外に軽快。
ハンドル角が32度と大きく、市街地での取り回しに苦労しない十分な余裕がツアラーとして適した設計となっています。
乾燥重量で242kg(ABS装着車は252kg)と、ZZR1100より14kg重い仕様なのにも関わらず、アップライトなライディングポジションと車体バランスで高い運動性能を発揮しました。
パワーと車体のバランスが取れた一種の名車として現在でも人気があり、大型初心者が中古車で購入するのに適した一台として評価されています。
空冷最強を目指したGPz1100とは趣の異なるGPZ1100でしたが、この当時はZZR1100の人気の高さにより販売台数は思ったよりも伸びず、1999年には生産終了に。
上位グレードとしてGPZ1100 ABSが1996年に追加販売されており、より高速走行時の安全性が高められているのもポイントのひとつで、中古車市場人気ではこちらが上です。
GPZ1100の型番はZXT10Eとなっており、エンジン形式はZXT10CE型。
生産期間は先代GPz1100同様、あまり長命ではなかったGPZ1100ですが、カラーリングバリエーションは6種類存在。
ZZR1100とは異なるバリエーションカラーが展開されていたのも、両車を区別する上で興味深いポイントとなっています。
- 1995年モデル
ルミナスピーコックブルー
キャンディパーシモンレッド
- 1996年モデル
パールグリーニッシュブラック キャンディパーシモンレッド
- 1997年モデル(1999年モデル共通)
メタリックシャンパンゴールド
パールコスミックグレー
こちらもGPz1100との区別化のため、時折GPZ1100-2と呼ばれることもありますが、こちらは同名のモデルであることもあって間違いではありません。
ただし、現在ではGPz1100とGPZ1100の中古車価格は2~4倍以上の差があるケースも多いため、オークションなどでの購入は「空冷か水冷か?」をはっきり尋ねることが必須条件と言えるでしょう。
カワサキ GPZ1100(1995) スペックシート |
全長×全幅×全高 |
2,180mm×720mm×1,210mm |
エンジン形式 |
水冷4ストロークDOHC4バルブ並列4気筒 |
総排気量 |
1,052cc |
最高出力 |
97ps/8,500rpm |
最大トルク |
9.0kg・m/4,500rpm |