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N/A 万円BMWの全歴史において最も「異端」でありながら、瞬く間に世界の頂点を極めてしまった究極の武闘派血統。それが「Sシリーズ」と、四輪最高峰のエンブレムを受け継ぐ「Mシリーズ」です。
そもそもBMWのモーターサイクルは、伝統的に「エンジン形式」によってシリーズの頭文字が区分されています。1923年から続くボクサーの「R」、水冷マルチのメガツアラー「K」、そしてミドルを担う「F」。BMWは創業以来の伝統である「ツアラー」と、自ら市場を開拓した「アドベンチャー(GS)」という絶対的な強みを持つカテゴリを誇ってきました。
実はBMWの歴史を振り返ると、戦前のマン島TTを制した「RS255コンプレッサー」や、第1回AMAスーパーバイクを制した「R90S」、さらには「R65LS」や「K1」など、若年層の獲得に向けて野心的なスポーツモデルを度々投入してきました。しかし、強固な保守層(ツアラー愛好家)からの要望を無視できず、結局は何度となくツアラー路線へと回帰してきた歴史があります。では、なぜそんなBMWが2009年になって突如、自らのアイデンティティ(シャフトドライブや独自のフロントサスペンション等)を完全に捨ててまで、SS市場に「本格集中」することになったのでしょうか?
それは「世界最強のテクノロジーブランドとしての証明」でした。妥協なき『ピュアスポーツを明確な柱として据える』という革命的決断から誕生した「Sシリーズ」。日本車の牙城をロックオンし、最終的に四輪最高峰のエンブレム『M』を二輪界に降臨させ、超プレミアムスポーツ市場の覇権を握るに至った、過激な進化の歴史を紐解きます。
SシリーズおよびMシリーズを語る上で欠かせないのが、他を圧倒する「絶対的な速さ」です。2009年の初代S1000RRは、当時の日本車(170〜180馬力台)を完全に置き去りにする「193馬力」を叩き出し、デビューと同時に1000ccクラス最速の玉座を強奪。 さらに現在、空力とチタンパーツで武装したM1000RRは、公道用市販車でありながら公称「最高時速 314km/h」に到達しています。「安全で快適な大人のツアラー」というかつてのBMWのイメージを、暴力的なまでの数字(スペック)で完全に破壊した、バイク史に残る歴代最速クラスのハイパーモデルなのです。
| 世代・フェーズ | 第1期「非対称フェイスと 日本車狩り」 (2009〜2014) |
第2期「バリエーション拡大と 熟成」 (2014〜2018) |
第3期「シフトカム革命と 『M』の降臨」 (2019〜現在) |
|---|---|---|---|
| 象徴的な出来事 | 初代S1000RRデビュー (クラス最強193馬力) |
ネイキッド(R)追加 クロスオーバー(XR)追加 |
エンジン完全新設計 二輪初の「M」ブランド誕生 |
| エンジンの進化 | 999cc 水冷並列4気筒 (超高回転型ショートストローク) |
トルクの最適化と電子制御の 高度化(DDC等) |
ShiftCam(可変バルブ機構)搭載 全域での圧倒的トルク |
| フロントサス | 倒立テレスコピックフォーク (※独自機構のテレレバーをあえて廃止) | ||
| リアサス | リンク式モノショック (※第2期以降は電子制御サスDDCへ進化) | ||
| ファイナルドライブ | チェーン駆動 (※独自のシャフトドライブをあえて廃止) | ||
| ルックスの特徴 | 左右非対称ヘッドライト (通称:海賊顔) |
RRは非対称を継続 R/XRによる専用外装 |
左右対称ヘッドライトへ 空力ウィングレットの標準化 |
| 電子制御 | レースABS / DTC (当時の世界最高水準) |
シフトアシストPro 電子制御サス(DDC) |
6軸センサー / TFT液晶 M専用レースエレクトロニクス |
Sシリーズのラインナップは「RR(スーパーバイク)」「R(ネイキッド)」「XR(クロスオーバー)」という、非常にシンプルかつ強力な3本柱で構成されています。そして2020年以降、それぞれのモデルに対して四輪譲りの究極のファクトリーチューンが施された『M』モデルが設定され、ラインナップの頂点に君臨しています。
| グレード | RR 系 (スーパースポーツ) |
R 系 (ストリートファイター) |
XR 系 (クロスオーバー / ツアラー) |
|---|---|---|---|
| 標準・上位グレード (Sシリーズ &Mパッケージ) |
S1000RR 電サス(DDC)等を備え、公道〜走行会を至れり尽くせりで楽しめる最高峰ベンチマーク。 |
S1000R RRのカウルを剥いだ過激なネイキッド。 |
S1000XR アップライト姿勢で峠を攻める長足ツアラー。 |
| ホモロゲ・競技ベース (純粋なMシリーズ) |
M1000RR WSBK規定のため「あえて電サスを廃止」し、チタンコンロッド等を組んだ真の競技ベース機。 |
M1000R ネイキッドに210馬力を積んだハイパーモデル。 |
M1000XR 世界最速クラスの狂気のツアラー。 |
Sシリーズの歴史において最もファンを混乱させるのが「ホモロゲ機」と「上位パッケージ」の違いです。初期はS1000RR自体がホモロゲ機を兼ねていましたが、現行モデルでは役割が完全に分割されています。公道での至れり尽くせりの最高性能を求めるか、WSBKで勝つための純粋な競技ベースを求めるかで、選ぶべき機体が明確に異なります。
| 時代 / フェーズ | WSBKホモロゲーション機 (レースで勝つためのベース車) |
公道向け上位グレード・パッケージ (一般ライダー向けの最高峰仕様) |
|---|---|---|
| 第1期〜第2期 (2009〜2018) |
S1000RR (※後にHP4へ) 当初はS1000RR自体がホモロゲ機。後にチタンマフラー等を装備した超軽量な限定車「HP4(2012年)」がその役割を担う。 |
プレミアムライン 等 ベース車にシフトアシストやDDC(電子制御サス※HP4以降)などの豪華装備を追加した公道用上位パッケージ。 |
| 第3期(現行) (2019〜現在) |
M1000RR (独立したホモロゲ機) WSBK規定を満たすためだけに生まれた別格の車種。規定で禁止されている電サスをあえて排除し、機械式サスやチタンコンロッドを採用。 |
S1000RR + Mパッケージ S1000RRにM専用カラーやカーボンホイール、DDC(電子制御サス)を全部乗せした、公道〜走行会における至れり尽くせりの仕様。 |
長年「安全で快適な大人のツアラー(上がりバイク)」というブランドイメージが定着していたBMWですが、2000年代後半、スーパーバイク世界選手権(WSBK)への参戦を決断します。市販車ベースで争われるWSBKの規定(ホモロゲーション)を満たすためには、当然ながら自社の市販ラインナップにも初めて「ピュアスポーツ」という絶対的な柱を新設する必要がありました。これはメジャーな市販車ベースのオンロードレースへのファクトリー参戦として、実に1976年のAMAスーパーバイク(R90S)以来となる、BMWの威信をかけた一大プロジェクトでした。
この「勝つためのピュアスポーツ」を作るにあたり、BMWは驚くべき決断を下します。これまでのアイデンティティであった「シャフトドライブ」や「テレレバー」を完全に放棄したのです。過去のFシリーズ(初号機)でも独自の機構を捨てていますが、あれが「廉価なエントリー機を作るための外注(他社製)マシン」であったのに対し、S1000RRは純血のBMW内製マシンであり、「サーキットでコンマ1秒を削り、本気で日本車を打ち負かすため」の決断でした。重量増とパワーロスを生む機構を排除した、純粋な勝利至上主義です。
さらに「横置き直列4気筒」という点では過去のKシリーズ(K1200S)と同じですが、Kが高速ツアラーとしての安定性を狙ってシリンダーを大きく前傾(55度)させていたのに対し、S1000RRは運動性能と高回転化に全振りした超コンパクトな新設計エンジン(最高出力193馬力)を搭載。日本車と全く同じ「横置き直列4気筒+チェーン駆動+倒立テレスコピック」という構成をあえて採用し、「相手と全く同じ武器を使い、力で完全にねじ伏せる」という掟破りの日本車ハンティングに出たのです。
その結果はすぐさまレース戦績に表れます。2009年にWSBKへ実戦投入されたS1000RRは年々戦闘力を高め、2012年にはマルコ・メランドリのライディングにより悲願の初優勝を達成。同年にはメーカーランキングでも2位を獲得し、参戦からわずか数年で「日本車を脅かす最強の刺客」としての実力を世界中のサーキットで証明してみせました。
こうして2009年に誕生した初代「S1000RR」は、世界中に特大の衝撃を与えました。当時の日本車が170〜180馬力台で争っていた中、いきなりクラス最強の「193馬力」を叩き出し、さらにレース用ABSや精緻なトラクションコントロールをいち早く標準装備。グラム単位の軽量化を追求した結果、ハイビームとロービームのリフレクターサイズを変えることで生まれた「左右非対称ヘッドライト(通称:海賊顔 / アシンメトリーフェイス)」は、S1000RRの絶対的なアイコンとなりました。
M1000RRという絶対的なホモロゲ機が誕生したことで、かつて頂点であった「Sシリーズ」が下位グレードに格下げされたかというと、そうではありません。メインフレームという基本骨格こそ同じですが、SシリーズはDDC(電サス)やクルーズコントロールを備え、公道から走行会までを最も快適かつ最速で走れる「現実世界の最高到達点(絶対的ベンチマーク)」としての役割を明確にしました。 限られた1%のためのピュアレーシングである「M」を、強固な土台として支える残りの99%のためのドリームバイク。それが現在のSシリーズの揺るぎない立ち位置となっています。
S1000RRがサーキットと市場を席巻する中、2014年にBMWはその暴力的な直列4気筒エンジンをストリート向けに最適化(中低速トルク重視)し、カウルを剥ぎ取ったストリートファイター「S1000R」を投入します。Kシリーズの「K1200R」が持っていた過激なネイキッドの系譜を、より軽量で運動性能の高いSシリーズのプラットフォームで引き継いだこのモデルは、アップライトなポジションでありながらスーパースポーツに匹敵する戦闘力を誇りました。
さらに翌2015年、BMWは驚くべき派生モデル「S1000XR」を発表します。これは「GS」のようなアドベンチャーモデルの長足(ストロークの長いサスペンション)と楽な乗車姿勢を持ちながら、前後17インチのオンロードタイヤと、S1000RR譲りの160馬力オーバーの直列4気筒エンジンを搭載した「オンロード特化のクロスオーバー」でした。荷物を満載して快適に長距離を移動し、峠道に差し掛かればスーパーバイクを追い回せるというこの強烈なコンセプトは、F900XRへと続くBMWクロスオーバー路線の象徴となり、このジャンルの先駆者であるドゥカティ・ムルティストラーダと真っ向から張り合う「ハイパークロスオーバーの双璧」として確固たる地位を築きました。
2019年、S1000RRはデビュー以来初となるエンジンの完全新設計を伴うフルモデルチェンジを敢行します。最大の特徴は、可変バルブタイミング・リフト機構である「ShiftCam(シフトカム)」の採用です。これにより、低回転での扱いやすさと高回転域での爆発的なパワー(207馬力)という背反する要素を完璧に両立。同時に、初代から10年間アイデンティティだった「非対称ヘッドライト」を卒業し、精悍な左右対称(シンメトリー)デザインへと生まれ変わりました。
そして2020年、BMWはついに禁断の扉を開きます。四輪の「M3」や「M5」などで知られる、BMWモータースポーツの最高峰エンブレム『M』を、二輪史上初めて冠した「M1000RR」を発売したのです。
S1000RRの「Mパッケージ」が電サス(DDC)を備えた公道向けの至れり尽くせりな上位グレードであるのに対し、この『M1000RR』はWSBKのレギュレーションに完全適合させるため、あえて電サスすら廃止して機械式サスペンションを採用し、チタンコンロッド等を組み込んだ「真のホモロゲーションモデル」です。巨大なカーボン製空力ウィングレット等で武装したこの機体は、まさに別格としてプレミアムバイクの頂点に立ちました。その後、ネイキッド版の「M1000R」、クロスオーバー版の「M1000XR」も相次いでM化され、Sシリーズは世界中のライダーが羨望するアルティメット・ブランドへと昇華します。
そしてこの『M』の投入は最高峰のレースシーンでも見事に結実し、ついに2024年、トプラク・ラズガットリオグルが「M1000RR」を駆り、BMW史上初となるWSBK年間チャンピオン(ライダーズタイトル)を獲得。S1000RRのデビューから15年越しに「世界最強」の称号を力で奪い取ったのです。
| 世代 / モデル | 買取相場の目安 |
|---|---|
| S1000RR(第1期・第2期) ※非対称フェイス(2009〜2018) |
50万〜120万円前後 (※年式や過走行により幅広く変動。海賊顔は底堅い) |
| S1000RR(現行・第3期) ※対称フェイス・ShiftCam搭載 |
190万〜250万円前後 (※Mパッケージ等はさらに高額) |
| S1000R / S1000XR ※ネイキッド / クロスオーバー |
70万〜160万円前後 (※年式や装備オプションにより変動) |
| M1000RR / M1000R 等 ※Mブランド・最上位モデル |
250万〜450万円以上 (※超プレミアム相場で別格の扱い) |
Sシリーズは、輸入車のスーパースポーツというジャンルにおいて群を抜いたリセールバリュー(買取相場の高さ)を誇ります。
■ SSゆえの「型落ちによる相場下落の早さ」
スーパースポーツ(SS)というジャンルは「最新のスペックと電子制御」こそが命であるため、ツアラー系(RやK)と比べて、新型が出た際の「旧型の下落スピード(足の速さ)」が非常に激しいのが特徴です。そのため、手放すタイミング(モデルチェンジの前後)が査定額に極めて大きな影響を与えます。ただし、初代から続く「非対称フェイス(海賊顔)」だけはデザイン面での熱狂的なファンが多く、初期型であっても一定の底値(50万円前後〜)をキープし続ける特異な存在となっています。
■ 「パッケージ」の有無がもたらす強烈な価格差(プレミアム)
BMWの査定において絶対的な基準となるのが「パッケージ(工場出荷時のオプション群)」です。Sシリーズの場合、電子制御サス(DDC)やシフトアシストが備わる「プレミアムライン」等であることが高額査定のほぼ必須条件となります。
特に現行のS1000RRでは、純正でカーボンホイールや専用カラーが備わる「Mパッケージ」(公道向け最高峰グレード)の有無によって、同じ年式でも数十万円単位の強烈な相場プレミアム(価格差)が生じます。さらに、ベース車ではなく純粋な『M1000RR』(電サスレスの真のホモロゲ機)などのMシリーズ機は新車価格400万円超えの完全な別格扱いとなり、中古市場でも常に超プレミアム価格を維持し続けています。
■ BMWの「買取相場の王座」の交代
中古バイク市場における歴史的な変化として、長年「BMWで最も高く売れるバイク(最高額査定の王様)」といえば、圧倒的な需要を誇る現行のフラッグシップ・アドベンチャーである『R-GS』シリーズの指定席でした。しかし、この『M』ブランドの登場によって、BMWの最高額査定の王座は完全に「M1000RR」へと移り変わりました。BMWの歴史において、ピュアスポーツがツアラー(GS)の相場を上回ったという事実こそが、SシリーズとMシリーズが成し遂げた最大の革命と言えるかもしれません。
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