「20年前に廃車にしたっきり納屋で眠っているZ900スーパーフォーを見てほしい」とのご依頼を頂戴して査定させていただきましたのは、かなり廃れた様相のZ1でした。
(Z900スーパーフォーと仰られるオーナー様のお言葉から含蓄が感じられますが、以下では一般的に通りの良いZ1と記載させていただきます)
オールペンでブラックに再塗装されている車体はサイドカバーの『900 DOUBLE OVERHEAD CAMSHAFT』エンブレムがなければ一見するとZ1とは識別できない風体でした。
オリジナルの玉虫カラーの面影はありませんが、サイドカバーのエンブレムの背景が銀塗装でることから1975年モデルのZ1B。
念のために刻印されたフレーム番号を見るとやはり、Z1Bでありました。査定内容を以下にご紹介させていただきます。
エンジン
最初にフレーム番号を確認させて頂きましたが、紐づけ確認でエンジン番号も確認します。
下桁が一致せず、エンジン載せ替えの可能性があります。(下段でエンジン載せ替えZ1の買取相場を詳しくご案内しています)
メーカーに確認させて頂いたところ、製造時のオリジナルで一致しているとのこと。載せ替えによって査定価格が大きく下がるることはありませんが、オリジナルの組み合わせであることはその要素で下がる余地がなく高評価となりました。
続いて状態を確認していきます。
一見して、始動しないと思わせるエンジンの外観で、空冷フィン・クランクケース・キャブレターは腐食で覆われています。
外側の劣化度合いから推測すると、エンジンの始動にも、エンジン機能の回復にもかなりタフな作業工程が必要になりそうなことは予想されます。
ボルトやねじ類は固着している個所も多く、腰下の修繕となるとフレームからエンジンを積み下ろしての一大作業になりあますので、ある程度纏まった修復コストを考慮せざるを得ないエンジン状態といえます。
外装
ネイキッドであるZ1の外装を構成するパーツは、価値の高い順に、タンク、テールカウル、前後フェンダー/サイドカバー、シートといった並び順でしょうか。
タンクについては線傷やエンブレムの劣化はあるものの比較的綺麗な外観を維持しています。中身は同は給油口を開けると、凄まじい腐臭が。20年かけて腐ったガソリンが固着しています。内部の錆も激しくなかなか修繕は大変そうです。
テールカウルやサイドカバーは、まずまず綺麗な状態ですが、前後のフェンダーは点錆が激しく、こちらも再販に当たっては入念な磨きなど大掛かりなメンテナンスが必須の状態。
シートに至っては、人目に付きにくいベースは使えるものの、スポンジやカバーは交換必須。
外装については、劣化を修繕する大掛かりな修復費用が買取価値を損う原因となっていました。
足回り
オイルシールがひび割れて減衰機能を失っているフロントフォーク、減衰の弱いリアショックは長年の放置の影響で要オーバーホールの状態。
点錆の出やすいインナーチューブは比較的綺麗ですが、アウターチューブにキャリパーは腐食が激しく、ホイールリムは錆錆のZ1B。
半屋根の納屋で風化が進んだ個所と風化がそれほど進行しなかった個所と別れていますが、ひび割れて交換必須のタイヤなど、 全体的には大掛かりな修復が必須で、足回りについてもマイナスか所が多く目立つ査定内容となりました
フレーム回り
Z1であることを証明するフレーム番号が刻印されたメインフレームについては、価値を棄損させるような損傷はなく一安心。
ですが、劣化は激しく入念なケアと再塗装は必須の状態。錆で固着している留め具類の交換などの必要で高い査定価格をお付けするには至りませんでした。
カスタム内容
Z1Bオリジナルグラフィックである玉虫カラーはオールペンでブラックに再塗装されています。
一見するとZ1であることが分からない塗装は、Z1としての買取価値を損ねています。
モリワキのショート菅については、ノーマルパーツがあればプラス査定となりますが、ノーマルパーツ欠品で劣化の激しい状態ですとノーマルに比べてマイナス査定とならざるを得ません。
付属パーツの無名メーカーのオイルクーラーは付加品ではありますが、もともとも価値が低いうえに劣化で気持ち程度のプラス査定。
メーカー不明のヘッドライト、リアサスペンション」、ミラー、ハンドル、ウインカーといった社外品は、オリジナルに比べて価値が低くマイナス査定。
全体としてはカスタム内容は、購入者のニーズに合致しておらず、パーツ価値的にも、残念ながら査定のプラスには繋がりませんでした。
総合評価と買取価格
以上のように、不動車としても劣化が激しくマイナス要素が目立ったZ1B。
不動車の取引データが少ないZ1は、修復後の価値からレストアコストを差し引いた査定価格となり、業者の目利きさらに修復力や販売力まで試されます。
Z1の買取実績が豊富で、自社の整備工場を持つ買取販売店パッションの力を駆使して58万円にて買取させていただきました。
Z1はいくらで売れるのか?適正相場
旧車ブームをけん引してきたZ1。 2017年には、フレーム番号が3番の初期型Z1がなんと1,200万円で売り出されるまでに至っています。
2018年現在では、相場の高騰にやや歯止めがかかった印象がありますが、実際にはどうなのでしょうか。まだ相場は右肩上がりなのでしょうか?
買取業者の査定価格の指標であり、販売業者の仕入れ値であり、つまり日本の中古バイクの相場を決定している業者間オークション市場の取引データを使用して、2014年からのZ1の相場の推移を検証してみました。
Z1の買取相場は過去5年でどう動いた?
Z1|取引相場の推移 |
|
平均取引額 |
最高額 |
最低額 |
取引台数 |
2014年 |
114万円 |
161万円 |
84万円 |
47台 |
2015年 |
131万円 |
284万円 |
89万円 |
28台 |
2016年 |
140万円 |
240万円 |
91万円 |
32台 |
2017年 |
142万円 |
322万円 |
93万円 |
34台 |
2018年 |
140万円 |
202万円 |
101万円 |
32台 |
(2014年から2018年まで、各年のとある時点で直近1年間の業者間市場の落札データを遡った数字)
(業者間市場とは全国で買取されたバイクの9割以上が出品される市場で、販売店と買取店の会員企業間で取引されるの業者間のオークション市場。そこで落札された金額が買取業者の査定価格の基準値となっています)
上記は過去5年間のZ1の業者間市場における取引データです。
取引台数は概ね各年で30台超の取引があり、十分な傾向がとれそうです。
取引額の推移を見ていくと、 平均取引額は2015年と2016年にかけて大きく高騰していますが、2016年以降はやや落ち着いた推移となっています。
最高取引額については、初期型でフレーム番号の若い希少車やフルオリジナルコンディションの希少車などが出品されると高値で取引されるので傾向としては掴みずらいですが、過去5年間では322万円の落札額が最高値となっています。
322万円は査定現場での買取額の1つの上限目安となりそうです。
最低額に目を移すと、最低落札額が着実に上がっていることが分かります。平均取引額はやや落ち着いたものの底値が上がり続けていることから今も引き続き相場高騰中といえるでしょう。
上がり調子がやや落ち着いている相場環境を考えると、Z1のご売却を検討中のオーナー様にとっては、今が絶頂の売り時である可能性も否定できません。
Z1-A/Z1-B モデル別の買取相場
フレーム番号が3番のZ1が1200万円という空前の高値で売り出されたように、Z1は初期型ほど価値が高く、同じ型式でありながら後継モデルのZ900となると相場がガタっと落ちることは知られたところ。
では、初期型とZ1A、Z1B、Z900で買取相場はどの程度違うのか検証してみましょう。
まずは、モデル別の年式イヤーとフレーム番号を整理してみました。
モデルチェンジ別の年式モデルと型式 |
|
イヤーモデル |
フレーム番号 |
Z1 初期型 |
1973年 |
Z1F-000~ |
Z1 A |
1974年 |
Z1F-020~ |
Z1 B |
1975年 |
Z1F-0745~ |
(K)Z900A4 |
1976年 |
Z1F-0857~ |
KZ900LTD |
1976年 |
KZ900B |
余談ですが、Z900(KZ900)について触れておきますと、Z900は欧州モデル、KZ900は北米モデルです。6型インジェクション車のZ1300、1~5型キャブ車のKZ1300といった区分けもありしたね。
KZ900LTDは、リンカーン工場にて限定2,000台のみ限定生産された車種で、モーリス社のマグネシウムホイールを履いています。
続いて、お客様がお持ちのZ1がどのモデルに位置するのか?フレーム番号ではなく見た目から識別できるポイントをご紹介いたします。
- Z900の見分け方|見た目の違い
- Z1:黒塗エンジン/火の玉カラー・イエローボール
- Z1A:タイガーカラー
- Z1B:玉虫カラー
- (K)Z900:サイドカバーエンブレムが(K)Z900
- KZ900LTD:マグネシウム キャストホイール
初期型Z1は、曲線美が美しいタンクの形状に沿った丸みを帯びた赤色が赤茶のタンクの中心に位置している『火の玉カラー』グラフィックパターンは同じですが中心の色が黄色になっている『イエローボール』
Z1AとZ1Bからは、グラフィックパターンが変わりアクセントカラーがタンク下部のラインになります。
Z1Aは青緑のタンクの金色のラインが入った『玉虫カラー』
Z1Bは茶色ベースのタンクに黄色のラインが入った『タイガーカラー』
となっています。
上記はオリジナルの塗装ですが、Z1はオールペンを施されている車両が多く、グラフィックパターンから年式モデルを特定するのは困難なのが現状です。
続いて、モデル別の仕様変更の変遷を見てまいりましょう
- ▼Z1/Z1A/Z1B/Z900の見分け方|仕様変更
- Z1:1972年発売
- Z1A:カラー・グラフィックを変更/エンジン細部の改良/ブレーキシュー残量インジケーターを新設
- Z1B:カラー・グラフィックを変更/シールチェーンの採用
- (K)Z900:マイナーチェンジ
- KZ900LTD:限定2000台生産
仕様上の価値に際はない初期型Z1/Z1A/Z1B
(K)Z900以降は、モデルチェンジ車両として多数の変更点が挙げられますが、
1973~1975年モデルのZ1については殆ど変更がなく、初期型Z1もZ1AもZ1Bも仕様上の価値については同一といっても過言ではありません。
プレミアムがプレミアムを呼び初期型神話のような状況になっていますが、実際の買取相場はどうか以下で検証しています。
モデルチェンジ別の年式モデルと型式 |
|
イヤーモデル |
フレーム番号 |
Z1 初期型 |
1973年 |
Z1F-000~ |
Z1 A |
1974年 |
Z1F-020~ |
Z1 B |
1975年 |
Z1F-0745~ |
(K)Z900A4 |
1976年 |
Z1F-0857~ |
KZ900LTD |
1976年 |
KZ900B |
同じフレ番でありながら別機種と区別されることも多いZ900(KZ900)ですが、相場上は完全に別車種として2段低い買取相場となっています。
Z1通のオーナー様にとっても意外と思われるかもしれませんが、玉数が圧倒的に多いのがZ1A。フレーム番号的にも6割強の構成となるZ1Aですが、業者間市場で取引された全32台のZ1のうち、8割強の26台がZ1Bとなっていました。
貴重化してなかなか市場に出てこない初期型Z1とあって2台しか取引がなく傾向地としては弱いのですが、平均取引額は176万円とZ1AとZ1Bに比べると30%ほど高い金額となっています。
Z1Bについては、取引数が少ないことが影響していると思われます。Z1AとZ1Bには相場差はなく市場での平均取引額は130~140万円台でしばらく推移しそうです。
上記は、日本の中古バイクが取引される業者間市場での取引金額ですので、査定現場での買取金額は上記金額から買取業者の儲けと経費(出品手数料や運送費など)を差し引いた額となります。
大型バイクの場合は、業者の儲けと経費(出品手数料や運送費など)の合計は4万円程度となります。
業者間市場で取引される金額から4万円程度低い査定金額であれば、非常に競争力のある買取額といえます。
2018年現在ではZ1の平均買取相場は下記のようになっています。
- ▼Z1の平均買取額
- 初期型Z1:172万円
- Z1A/Z1B:133~143万円
- (K)Z900:75万円
- KZ900LTD:63万円
エンジン載せ替えのZ1の買取価値は低いのか?
今回買取させていただきました、Z1はフレーム番号とエンジン番号が微妙にずれています。
Z1やZ2に関しては、エンジン載せ替え車両の買取額が安くなると、耳にされた方もいらっしゃるかと思います。
ここでいうエンジン載せ替えは同一車種間の載せ替えで、他車種のエンジンに載せ替えることではありません。Z1以上に高価な車種は殆どないため他車種のエンジンを搭載したZ1の買取額は基本的に大きく下がります。
Z1に関してはフレーム番号に合致した製造時オリジナルのエンジンかどうかが重要で、買取価値に影響すると言われています。
ですが、実際には、メーカーに確認しないとフレームとエンジン番号が製造時と一致しているかの真贋は分かりません。
その理由は、基本的にはフレームとエンジンの下桁の番号が一致していることが多いのですが、多数の例外が存在しているためです。
多くの車両はエンジンの下桁の番号が一致しているということを前提に、番号の乖離が大きい車種をエンジン載せ替え車両と仮定して、買取相場を比較してみました。
オリジナル vs エンジン載せ替えZ1の取引相場 |
状態/ 落札価格帯 |
オリジナル |
エンジン載替 |
平均取引額 |
144万円 |
132万円 |
200万円台 |
1台 |
0台 |
190万円台 |
0台 |
0台 |
180万円台 |
0台 |
0台 |
170万円台 |
0台 |
1台 |
160万円台 |
3台 |
1台 |
150万円台 |
3台 |
0台 |
140万円台 |
8台 |
0台 |
130万円台 |
3台 |
2台 |
120万円台 |
1台 |
3台 |
110万円台 |
2台 |
3台 |
100万円台 |
1台 |
0台 |
(2018年5月時点で、業者間市場の落札データを過去1年間遡った数字)
(業者間市場とは全国で買取されたバイクの9割以上が出品される市場で、販売店と買取店の会員企業間で取引されるの業者間のオークション市場。そこで落札された金額が買取業者の査定価格の基準値となっています)
※エンジン載替として、リストアップした車両はフレーム番号(Z1F-00000)とエンジン番号(Z1E00000)の下4桁が2000番以上異なる車種としました。
フレ番とエンジン番号が不一致の例外も多数存在するため、エンジン載せ替えの可能性が高い車種という意味合いとなります。
買取相場の前提指標である、業者間市場の落札データを見ると、エンジン載せ替え車両と思われるZ1の平均取引額は132万円。オリジナル状態の平均取引額よりも12万円安くなっています。
やはりエンジン載せ替えのZ1の買取価値は低いというのは本当だったのか?
年季の入った個体に番号に一致しない(エンジン載せ替えの可能性が高い)傾向がり、相場が低いという側面もありますが、買取相場的にはエンジン載せ替えのZ1は少し安くなる傾向があります。
ただし状態によって十分にリカバーできる程度の差であると理解できます
Z1の買取は専門店が高いのか?
結論から言うと、知識のある買取業者であれば、買取額に大きな違いはありません。
その理由は、業者間市場にあります。どの販売業者もZ1の適正な仕入れ値を知っています。
適正な仕入れ値とは業者間市場で取引される落札金額です(実際には落札金額に消費税と落札手数料が加算されるため落札額+10%となりますが)。
年間で32台ものZ1が取引されていますので、仕入れに苦労することはありません。150万円も出せば程度の良いZ1を仕入れることができます。
また、販売業者は国内ではなく、欧州や北米のZ1を仕入れることが多く、いまだに国内未登録の輸入車として海外から送られてくる車両が多く存在します。
ワールドワイドで小売価格が平準化し高騰していることもあり、ジャンク車を仕入れて起こして販売されているケースも多々あります。
弊社でお客様から買取したZ1の転売先として、弊社販売店、業者間市場、提携の旧車専門店と天秤にかけると、どこが一番高いと思われますか?
答えは弊社販売店が1位、次いで提携先の旧車専門店、最後に業者間市場となります。
業者間市場を経由すると多数の業者が介在するため、各業者ごとに経費や利益が発生して、買取額はおのずと安くなってしまいます。
次いで、提携販売店に卸す場合は、買取業者と販売業者でそれぞれ経費と利益が発生するため、買取額はやはり抑えられてしまいます。
しかし、自社販売店に卸す場合は、同じ会社なので儲けは2重発生しませんし、輸送コストも最小化されます。
また、買取を主業務として展開していない販売店では、買取業務に慣れていないため、必ずしも適正な相場を提示してくれるかはミステリアスであることは押さえておきたいです。
回転が悪く整備にコストがかかる都合上、仕入れ価格の倍の値段で売られることも多い旧車。
150万円で仕入れたZ1を300万円で売るという価格設定はザラです。一方で200万円で売っているところもあります。
高額な値段で売られている販売店では高額で買取してくれる期待を持つもの自然なことですが、餅は餅屋。
買取に強い販売店。Z1に詳しく買い取り実績も豊富な弊社パッションであれば間違いはありません。
Z1【1973~1975年モデル】
【実働車】の業者間オークション市場における、買取時点直近12ヶ月間の落札データ
- 取引台数: 32台
- 平均価格: 1,406,000円
- 最高価格: 2,002,000円
- 最低価格: 1,014,000円
【事故車・不動車】の業者間オークション市場における、買取時点直近12ヶ月間の落札データ
- 取引台数: 0台
- 平均価格: No Data
- 最高価格: No Data
- 最低価格: No Data
相場情報:2018年5月26日時点
最新の相場情報は、10秒で買取相場が出る自動査定でチェックして頂けます。
上記金額は、買取業者の最大の転売先である業者間オークション市場の落札データであり、買取業者の転売金額です。
業者間オークション市場とは買取業者と販売業者が参画する競り市場で、年間に約20万台のオートバイが取引される市場です。
買取業者が買取したバイクの約9割は上記市場において転売されています。
その事実が、業者間オークション市場の落札金額が買取業者の査定額の基準値である所以です。
査定現場での買取価格は下記の転売(落札)金額から買取業者の儲けと経費(運送料や出品手数料など)を差し引いた金額となります。
査定現場での正味の買取額は、転売金額である落札額から5~10%を割り引いた金額が適正で競争力のある価格となります。
金額にすると単価の安い原付バイクで1万円から、100万円を超える高額車両では6万円までが適正な割引額です。