「DR800S」は、1990年に海外向けモデルとして発売されたラリーマシンである。実質的には、ワークスマシン「DR-Zeta」のレプリカモデルとして1988年に登場した「DR750S」の後継モデルにあたる。
「DR800S」はエンジンの仕様と外装デザインの面で、当時のライバルモデルとは違った異端児的なマシンとなっていた。
パワートレインには、SOHC４バルブの油冷4サイクル単気筒779ccエンジンを搭載している。これは、従来モデル「DR750S」のエンジンをベースにピストンストローク量を6mm長くして、ボア・ストロークを105mm×90mmとすることで排気量アップを図っている。最高出力は7,000回転で52.5馬力というスペック。先代モデルで700㏄オーバーの量販バイクとしては最大のビッグボアエンジンだったが、今回の「DR800S」が登場することでさらにその記録を塗り替えることになった。ちなみに、これほど大排気量で単気筒仕様になると振動も当然大きくなり長時間レースで戦うマシンに搭載することは現実的ではなくなる。それで、2軸バランサーを採用することで振動を抑えているという構造になっている。
ちなみに当時のライバルモデルとなるホンダ「アフリカツイン」はV型2気筒エンジンを搭載。ヤマハ「XT750 スーパーテレネ」は並列2気筒仕様だった。
「DR800S」の足回りは、フロントがテレスコピック正立フォークに21インチタイヤを履きディスクブレーキを装備。リアはモノショックに18インチホイールとディスクブレーキという組み合わせ。なお、従来モデルの「DR750S」のリアブレーキはドラム仕様だった。トランスミッションは5速リターン式を採用。
外観上の特徴としては、クチバシのような形状をしたフロントカウルが装着されている。フロントフェンダーはタイヤ上部に装備されているので、「ダブルフェンダー」と呼ばれたり「ライトフェンダー」と言われることもある。目的はヘッドライトが飛び石や異物によってダメージを受けてしまわないように保護することである。このデザインは、現在も販売されている「Vストローム」シリーズにも採用されている。
燃料タンクはデビューモデルでは29Lと大容量仕様だったが、翌年の1991年に仕様変更を実施し24Lへ縮小された。その後は、ヨーロッパをメイン市場として1997年まで販売され生産終了に至った。

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解説記事更新日：2021年12月08日

1990年に新発売されたDR800Sの初期モデル。
DR750を先代モデルに持ち、大排気量化されて登場した本車。シングルエンジンとしては市販車最大排気量となる779ccの油冷4サイクルOHC単気筒を搭載、最高出力は54.4ps/6600rpmを発揮した。
2軸バランサーを持ってしてハーレーをも凌駕すると言われる単気筒ビッグの鼓動感に加えて満タンにすると車重がグンと増す29Lの大容量タンク、オフローダーで輸出モデルということもありフラットではなく窪んだ形状ながら890mmという日本人には少々厳しいシート高など、乗る相手を選ぶモデルであったことには間違いない。
カラーバリエーションにはブルーとレッドの2色を設定。
またの名を「ファラオの怪鳥」というなんとも厳めしい愛称で呼ばれるDR800S。その起源は1987年に参戦した同社の競技用オフローダー DR-Zeta まで遡る。1987年にパリダカールラリーに次いで人気の高かったファラオラリーに初参戦したDR-Zetaは2気筒が主流の時代に単気筒、そしてクチバシのようなダブルフェンダーで一躍注目を集めた。初戦では目立たない「ただの怪鳥」だったが、なんと翌年のリベンジではなんと同レースで優勝、晴れて「ファラオの怪鳥」という異名が与えられたのである。
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解説記事更新日：2021年09月30日

マイナーモデルチェンジを受けて発売された1991年モデルのDR800S。
燃料タンクをコンパクト化し容量を29L→24Lへ縮小、外装も全体的にスリム化された。また、マフラーは2本出しになりそれに伴いテール周りにも外観の変更を受けた。
カラーバリエーションにはブルーとレッドの2色を設定。
スズキの得意技である油冷に加えてビッグシングルというなんとも芳しい雰囲気を持つ本車。足つきの悪さや燃費の悪さ、シングルエンジンが生み出す鼓動からの疲労など、細かな批判が多いがそれはDR800Rに惹きつけられるユーザーの多さを表しており、オールマイティで何でもソツなくこなす優等生「ではない」という点こそこのDR800の魅力であると言えるだろう。
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解説記事更新日：2021年10月11日

カラーチェンジを受けて発売された1992年モデルのDR800S。
カラーバリエーションは先代から引き続きブルーとレッドの2色を設定しながらグラフィックに変更を受けた。
ライバル車としてはホンダのアドベンチャーツアラーモデルであるアフリカツインが挙げられる。1992年モデルの最高出力は57PS/7,500rpm、乾燥重量は209kgで2台のパワーウェイトレシオを比較するとアフリカツインが3.66kg/PS、対するDR800Sは3.56kg/PS。数値上の加速性能では僅かではあるがDR800Sが優っていた。
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解説記事更新日：2021年09月30日

カラーチェンジを受けて発売された1993年モデルのDR800S。
カラーバリエーションにはブラック、ブルーの2色を設定。
輸出向けであること、そして大抵の日本人には扱いづらいサイズ感であることで国内においてはレアなモデルとなっているが、そんなDR800Sをこよなく愛するニッチなライダーズも存在しており、日本においては1988年頃に発足したと見られる国内随一のDRオーナーズクラブに怪鳥同盟が2018年に30周年イベントを開催している。
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解説記事更新日：2021年09月30日

カラーチェンジを受けて発売された1994年モデルのDR800S。
カラーバリエーションにはブラック、ブルーの2色を設定。
ライバル車にはヤマハのアドベンチャーモデルであるTDM850が挙げられる。1993年モデルの最高出力は72PS/7,500rpm、乾燥重量は199kgで2台のパワーウェイトレシオを比較するとTDM850は2.76PS、対するDR800Sは3.56kg/PSとなり、加速性能ではTDM850が優っていた。また、パワーバンドではTDM850は6,000rpm〜7,500rpm、それに対してDR800Sは5,400rpm〜6,600rpmとなっており、TDM850に比べて低回転域での力強さがあることがわかる。
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解説記事更新日：2021年10月11日

カラーチェンジを受けて発売された1995年モデルのDR800S。
カラーバリエーションには先代から引き続きブラック、ブルーの2色を設定しながらグラフィックに変更を受けた。
国内において決して知名度が高いとは言えないDR800Sだが、一度見た時のインパクトは大きく簡単には忘れることのできない奇抜なモデルであることも間違いない。もちろんDRの開発陣もこのクチバシ怪鳥フォルムには愛着があったようで、DR800S以降スズキのアドベンチャーモデルとなるVストロームシリーズにも受け継がれており、その中でも2019年にミラノショーにて発表されたVストローム1050には直線的なクチバシが色濃く受け継がれていた。
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解説記事更新日：2021年09月30日

カラーチェンジを受けて発売された1996年モデルのDR800S。
カラーバリエーションにはブラック、ダークグリーンの2色を設定。
ライバル車にはBMWのアドベンチャーモデルであるR850GSが挙げられる。1998年モデルの最高出力は70PS/7,000rpm、乾燥重量は218kgで2台のパワーウェイトレシオを比較するとR850GSは3.11kg/PS、対するDR800Sは3.56kg/PSで数値上の加速性能ではR850GSが優っていた。また、パワーバンドにおいてはR850GSが5,600〜6,750rpm、対するDR800Sが5,400〜6,000rpmで若干低回転型となっているものの大差はないと言えるだろう。
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解説記事更新日：2021年09月30日

カラーチェンジを受けて発売された1997年モデルのDR800S。
カラーバリエーションにはレッドとブラックを設定。
1990年に登場したDR800Sはこの1997年モデルが最終型となった。スズキの技術向上に伴いニューモデルを製作する流れになったこと、国際的な環境への配慮が高まったことなどが重なっての生産終了であった。セールスこそ多くなかったものの市販車両最大排気量の油冷シングルエンジンを積みファラオの怪鳥と呼ばれた稀代の異形ラリーマシンは人々の記憶にその爪痕をしっかり残したと言えるだろう。
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解説記事更新日：2021年10月11日