Xディアベル ネラ【2022年】毎週更新の買取査定相場

ドゥカティ Xディアベル ネラ（2022年）は、Xディアベルという“テクノ・クルーザー”の完成度を、工業製品から工芸品の領域へと引き上げた特別な存在である。
スポーツバイクの技術をクルーザーに落とし込むというXディアベルの思想は、2016年の初代登場時点で既に完成度が高かった。しかしネラは、その性能を競うモデルではない。ドゥカティが「速さ」ではなく「質感」と「所有体験」をテーマに据え、イタリアン・ラグジュアリーの象徴であるポルトローナ・フラウと手を組んだことで誕生した、世界限定500台の象徴的モデルである。

ベースはXディアベル1260。メカニズムに変更はないが、ネラでは方向性が明確に異なる。
・ポルトローナ・フラウ製 Pelle Frau レザーを用いた完全手作業シートを採用
・シートカラーは5色から選択可能という異例の仕様
・ブラック・オン・ブラックを基調とした専用カラーリング
・専用鍛造アルミホイールを装備
・シリアルナンバー入りプレートをフレームに装着

マシン構成に目を向けてみると、テスタストレッタDVT1262は、低回転域から127Nmという太いトルクを発生させる。このエンジンは、アクセルをわずかに開けただけで車体を前に押し出し、クルーザーらしい余裕と、ドゥカティらしい鋭さを同時に感じさせる。ロングホイールベースと低いシート高は安定感に優れ、コーナーでは想像以上に自然な旋回性を見せる。ブレンボ製ブレーキと電子制御群は、重量級クルーザーにありがちな“鈍さ”を感じさせず、常にライダーの意図を正確に反映する。ネラの走りは、速さを誇示するものではない。静かで、深く、品のある加速感こそが、このモデルの本質である。

兄弟車との比較はあまり意味がない。走りだけを追求するなら、他の兄弟車とパーツ違いはあれど、体感上の差異を感じることは少ないだろう。
Xディアベル1260Sと比較すると、最高出力160PS、最大トルク127Nm、車重221kgという基本数値は同一である。しかし1260Sが“走りの質”を追求したモデルであるのに対し、ネラは“所有の質”を極限まで高めている。サスペンションや制御系の違いよりも、シート、仕立て、限定性がもたらす価値の差が大きく、性能ではなく意味の違いが両者を分けている。

ライバル車とされるのは以下のモデルになる。
ハーレーダビッドソン FXDR114は、約160Nmに迫るトルクと独特の存在感を持つが、電子制御やシャシー精度ではXディアベルに及ばない。
BMW R18は1,802ccの水平対向エンジンとクラシックな佇まいを持つが、スポーツ性という点では方向性が異なる。
トライアンフ Rocket 3Rは2,458cc・221Nmという圧倒的なトルクで「量の暴力」を体現する一方、Xディアベル ネラは1262cc・127Nmという数値の中で、制御・質感・美意識によって成立する、まったく異なる方向性のラグジュアリークルーザーである。

中古市場の傾向
中古市場では、通常のXディアベルとは明確に別枠で扱われる。走行距離よりも、シリアルナンバーの有無、シートの状態、付属品の完備が重視される傾向が強い。特にペレ・フラウ製シートのコンディションは、評価を大きく左右する要素となる。海外相場の影響も受けやすく、流通量の少なさから安定した評価を維持しやすいモデルである。

買取査定額アップのポイント
Xディアベル ネラにおいて最重要なのは、完全オリジナル状態の維持である。専用シートの擦れや色褪せがないこと、5色のうちどのカラーが選ばれているか、シリアルプレートが残っているかは必須確認項目となる。付属の専用キーリング、ドキュメントホルダーの有無も評価に影響する。過度なカスタムは評価を下げやすく、純正状態を保っている個体ほど価値は高い。

過去2年の間に、中古業者間オークションで確認された個体はわずか一台のみ。しかもその状態は極上で、走行距離は575kmに留まっていた。この事実が物語っているのは、Xディアベル ネラというモデルが「走るため」以上に、「所有すること」そのものに本質的な価値を持つ存在だという点である。
Xディアベル ネラは、シリーズの中でも異質な存在であり、同時に完成形のひとつである。今後も台数が増えることはなく、状態の良い個体は安定した評価を保ち続ける可能性が高い。買う側にとっても、売る側にとっても、“時間に価値を削られにくい”稀有なモデルと言える。

解説記事更新日：2025年12月14日